RJ7まとめ - 4/4

コタツは正しく仲良く使いましょう。

賀茂監督からコタツが支給されたのはある意味天の恵みだったのかもしれない。
RJ7が滞在する合宿所の憩いの場は本当によく冷える。
小さなガスヒーターも先日見事に壊れてしまい、憩いの場は一気に憩わない場になってしまったのだ。
それを見て流石に憐れに思ったのかどうかは不明だが、お古のコタツを持ち込んできた賀茂監督に対して神と崇める者もいれば、コタツの存在に初めて触れる者もいる訳で。
兎にも角にも、憩わないその冷えた部屋が、一気に暖かな憩いの場に戻ったのは大変いい事だろう。
……だがしかし、憩いの場は一気に戦場へと変わってしまったのは嘆くべき事案であろう。
そもそも、こんなブツを独り占めしようという考えが浅ましいのだ。
お互い肩寄せあって温もればいいだけの話。男しかいないこの環境でそれがなかなかに絵面として気持ち悪いとしても。
寒さは人を狂わせる。違った。コタツは人を狂わせる。
俺は全身使ってコタツを堪能している山田の姿を見て心底そう思った。

「お前、何してんの」
「全身でコタツを堪能している」
「うん、そうだな。でもその入り方やめてくれ。俺が入れない」
「頭以外を出したくない。許してくれ、弓倉」
「寒さに負けすぎだろお前…」

何時もなら穏やかな表情で場所を空けるような優しさを持っている山田だが、頑なにコタツ内へ籠城を決め込んでいる。
確かに、今日は一段と冷える。正直すごい寒い。
練習の時点から寒くて、皆、賀茂監督に怒鳴られていた。
冬に差し掛かる季節の風はよく身に沁みる。ましてや、うちの合宿所は予算の観念から見ても、全日本ユースより寂しい作りなのだ。
この憩いの場こそが暖かな癒やしのスペースであり、食事前、食事後、就寝前の集合場所だ。
正直、俺も入りたい。というか入れてくれ。
けれどもコタツに入れない如きで口論するのもなにか違う。でも入れてほしい。
仲間との友情を保つ理性と寒さに負けそうな本能がせめぎ合っている合間に、滑り込むようにコタツに入った人間がいた。
浦辺だ。てかすごいスライディングで入ってきたな。山田が涙目でしがみついてるぞ。

「もっと詰めろよ、山田!」
「嫌だ。ここは死守する」
「せめて弓倉が入れるようにスペース作れ!」
「嫌だ。俺は絶対動かない」

足蹴で山田の場所を動かしつつ、コッチ来いと手招きする浦辺に対して、俺は今最高に笑顔な気がする。
早速入ろうと再びコタツに近づいたあたりで、その隙間にまるで縫うように入ってきたのは、まさかの吉川だった。

「甘い、甘いで弓ヤン! こんなんは早いもの勝ちや!」

ドヤ顔で話す吉川に対して、蹴りを入れなかった自分を褒めたい。
寒いし入れないしで、そろそろ友情を捨てるべきだと理性も囁きかけてくる。
浦辺は山田を座るよう引っ張り出してきたので、再びスペースが出来る。
今度こそ入らなければならない。というか入る。そろそろマジで寒い。
コタツの布団に手をかけたところで、ナチュラルに入ってきた奴がいる。

「……リョーマ…!!」
「あったけえな。ところで、お前は入らないのか?隣、空いてるぜ」
「いや、俺が入ろうとしてるのに、なんでお前が先に入るんだよ!」
「空いてたからな」
「てかいつの間に…!くっ…!」

隣、空いてるぜ……なんて優しい言葉はほんの数秒で意味を無くした。
ナチュラルに坂木と岡野がもう入っている。
岡野は坂木を盾にする形でリョーマとの衝突を避け、ついでに持ち込んできた缶コーヒーを啜っている。
そもそもこのコタツ、小さすぎる。6人入ればギッチギチだ。つまり弾かれる者が出てくる。
そして今回弾かれたのは、俺という計算になる。

理性と本能が同時に『コタツの為友情を捨てよ』と叫んだ気がした。

「片桐、経費で買いたいものが…」
「内容によりますが、基本は却下ですよ。理由は分かってますよね」
「この前経費で寿司食ったのは謝る。 今回は真面目なお願いだ」
「……何を買うんです?」
「10人ぐらい入れるコタツ……」

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