「…早田。」
ノイズの混じらない声。
目の前に居る男の顔もはっきり見える。
こいつが、小野田。 この夢を作り出した本体。
「早田、すまん。俺が悪かった。」
「何が悪かっただよ!なんで俺を巻き込むんだ!俺はお前の事なんて知らない!」
「俺に何回も同じ夢を見せて、お前は何がしたいんだよ!馬鹿野郎!」
「…思い出してほしかったんや。俺という存在を」
「忘れんでほしかった。それだけや。」
「思い出すも何も、俺はお前を知らないんだ、思い出す事も出来ねえよ!」
「お前が知ってる『早田誠』じゃねえんだ!俺は!」
「…そうやな。 それもそうや。 お前は俺の知ってる『早田誠』じゃない」
「俺が知ってる『早田誠』は、もう居らんのや。何処にも。」
「だから、『早田誠』に俺の存在を知ってほしかった。」
「お前の記憶に俺が少しでも残ればエエと思った。」
小野田が小さく笑う。 そうだこの笑顔だ。
いつも最後に「忘れないで」と言う時見せる、悲しい笑顔。
その時、俺はいつも何かを叫んでいたような気がするのに、思い出せない。
「この夢も言うてる間に終いや。もう俺は夢には出ぇへんよ。」
「お前を苦しめたかった訳やないしな。」
「馬鹿野郎、ならなんでそんな顔すんだよ。」
「寂しいやないか。お前に忘れられるのが一番寂しいんや。」
「辻も、中西も、翼も……、俺にとっては大切な友達、ライバルやけど、俺にとって一番の相棒はお前やったから。」
「お前が思い出してくれへんのが寂しいんや。」
「小野田、お前……。」
「なぁに、もうエエんや。俺がおらんくてもお前は立派にやってける!この先の未来は沢山あるんや、お前にとって最高の未来を選んで掴み取れや!」
「……すまねぇ。」
「お前まで辛気臭い顔すんなや!まぁ、また夢に出たら、そんときは一緒にサッカーしようや!早田!」
「お前、さっきはもう出ないって言ったろ!」
「俺は出るつもりなくても、お前が望めば…な?まぁ、こんなふうに干渉するつもりは無いから、セーフって事にしといてや。」
「……たく、しょうがねぇな、お前は」
「ホンマにお前はいつもそうや、小野田」
あ、れ。
ああ、そうだ、俺。……いや、ワイは。
「小野田、お前は何時もそうやっておちゃらけて、ワイとコンビ組むとグダグダで……」
「ホンマにやってられんかった……そう、覚えてる。」
「小野田、そうか、お前……。」
お前は小野寺の代わりにーーー。
言葉を最後まで言い切る前に、俺の夢は終わった。