早田が小野田を思い出すまでの話 - 2/15

早田誠は最近見る夢に酷く悩んでいた。

なんの変哲もない夢なのだ。運命のあの一瞬。そう、南葛との戦いの夢。
翼をマークして、他の奴らからボールを奪って、自慢のカミソリシュートを決める。

しかし、違和感があるのだ。

ボールを蹴る時、ゴールを決める瞬間、ワンツーリターンを合わせる時。
試合の流れの中に感じる、妙な違和感。

『行くぞ!―――!!』

パスを回す時、誰かの名前を呼ぶ。しかし、その名前はうまく聞き取れない。
自分が呼んでいるはずなのに。なのに、上手く言葉になっていない。
蹴り上げたボールの先に居たのは、茶髪で少し長髪の男。
背番号は……見えない。 まるで塗りつぶしたかのようにぼやけて見えないのだ。
それどころかそいつの顔もうまく認識できない。
ボールを受け取ったそいつは、軽やかな走りで一気に敵陣へ乗り込んでいく。

それに合わせて無意識に走り込んでいた俺に向けてそいつはボールをパスする。
そして大声で叫ぶんだ。

『お前の十八番で決めたれ!早田!!』

聞いたことのあるような、少し低めの優しい声。
しかし、その声のところどころに雑音が混ざる。
ボールを受け取ったその瞬間に、目の前にあったゴールも、うるさい観客の声も、一緒に走っていたチームメイトたちも、それに自分を止めるために目の前にいた敵チームたちまで。
すべてのものが消え去り、なにもないまっさらなフィールドに一人、立っていた。

「な、なんだ?なんなんだ、一体!」

『早田。』

突然の展開についていけず困惑する中聞こえた声。その声に誘われるように後ろを振り向く。
茶髪の男が、右手を軽く上げて手を振る。視界の先に見える表情は、ぼやけてひどく見づらいはずなのに。
なのに、何故かはっきりと捕らえることができる。悲しげな笑顔を浮かべながら、最後に必ずこう言うのだ。

『俺のこと、忘れんでな。』

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