そして、早田の夢は終わる。
目が覚めた時に感じる、酷い違和感と疲労感。
あの男は誰なんだ? なぜあの試合に混ざってきた?
『忘れないで?』……意味が分からない。忘れないでもなにも、あんなやつは俺のクラスにもうちのチームにも居ない。
……なんで、あんな悲しそうに笑うんだろう。いつも悲しそうに笑って、忘れないで、ってノイズ混じりの声で話す『あいつ』。
……あいつは、一体誰なんだ?
「なんだよそれ、オカルトかよ!怖いな!」
昼休みの食事中、早田は夢の話を同じチームメイトでありクラスメイトでもある辻に振る。
牛乳パック片手に驚きつつもどこか冷静さを保つ彼に早田は呆れ気味に手に持っていたパンを頬張り
それを口に含んだままモゴモゴと会話を続ける。
「ん…オカルトってほどでも無いだろ。…んぐ、やっぱお前も分かんねぇよなぁ。ヒントがなさ過ぎる。」
「俺らと同い年ぐらいで…、はむ…、茶髪の髪の毛長めの。サッカーがそこそこ出来るやつ。」
「分かんねぇよ。早田。俺たち小学校から一緒だったじゃねぇか。お前が分かんねぇのに俺がわかるかよ!」
「てか、飲み込んでから喋れよ。下品だから。」
早田はわりといらちな質で、行動を次へ次へと押し込んでこなすタイプだ。
だからか、食べながら喋るなんて下品な事も割と平気にやってのける。
辻はそんな早田の食事風景をを注意しつつ、牛乳パックに刺さっていたストローに口をつけ一口飲み飲む。
「んじゃさァ、今度夢に出てきたとき名前聞けばいいんじゃね?フルネームで。」
「そうすれば小学生時代のアルバムなり、中学の名簿なりで探せるだろ。」
「そうだな、その手で行くか。今度出てきたら名前を真っ先に聞くことにするぜ。」
「単純だな、お前は。ま、また結果聞かせてくれよ。」
辻はいつも冷静に的確に案を出してくる。早田は今回もそれに乗ることにした。
名前がわからない、呼んでいたはずなのに認識しない。 ならばもう直接本人に聞いたほうが早い。
単純ではあるが、実に的確だと思える。作戦なんてそれぐらいシンプルな方がいい。
早田は手に持っていたパンの残りをすべて口に入れれば、あっという間に咀嚼して飲み込んでみせた。
そして辻に一言礼を述べればさっそく作戦に活かせるようにと、数学ノートにメモを取り始めたのだった。