そこで、目が覚めた。
「…本当にオカルトじみてきたなァ。おい。」
「本当だよ!何が『逃さへん』だよ、起きて一番に自分のズボン見ちまったよ。」
「漏らしてないかの確認で?」
「ああ、もちろんよ。この歳で漏らしてたら、もう外歩けねえ。」
冗談交じりの会話を続ける中で、妙は表情でパンを齧る辻に
改めてもう一度知らないかと聞こうか悩んでいた早田に
察したかのように辻は唇を開く。
「…お前、もう小野田のことは忘れろよ。」
「忘れたほうがいいんだよ、そいつの事は。」
「今まで知らなかったんだ、もう十分だろ。」
「馬鹿野郎、俺が忘れたくても夢に出てくるんだからどうしようもないだろうが!」
「相手にするな。もう、何言われても何されても何も返すな。」
「お前のためだぞ、早田。 本当に冗談じゃすまなくなる。」
辻の表情は至って真剣だ。 自分の事を本気で心配しているんだろう。
きっと、忘れたほうが早い。全部聞かなかったことにして全部無かったことにしたほうが自分にとっても
きっといいにきまっている。でも、それでも。
「あいつが、逃さないって言ったときの顔…。」
「すごい、泣きそうだったんだ。俺を憎んでるとか、そういう感じじゃない。」
「あんな顔見ちまったら、もう忘れられねぇよ。」
埒があかない、と早田は「ソイツ」との接触を試みる事にした。
夢に出てきた「ソイツ」は明らかに何か知っているようだった。 そして、俺にそれ以上踏み込むことを止めようとした。
この事件の解決のキーパーソンは明らかに「ソイツ」である事は明白だったからだ。
…だがしかし、連絡先など知ってるはずなどなく、この妙案はいきなり頓挫したのだった。
「ちくしょう!中西まで知らねえとなると、もう夢の中で聞くしかねえじゃねえか!」
「…もう一回あの夢を見るのか…。すごい憂鬱だぞ、これは。」
夢で毎回繰り返されるあの試合。
最終的に見えるのは、負け。
けしてあの試合に心残りがあった訳ではない。 自分達としては全力をもって挑み、負けたのだ。
…でも、もしかしたら。自分が意識しないうちに後悔があったのかもしれない。
だからだろうか、あの夢を見ることを早田はかなり憂鬱に思っていた。
小野田という存在。 負けるしかない試合。 崩れ落ちる風景。
目の前に広がるのは―――。
「…考えたって仕方ねえ!どっちにしたって、眠らなきゃいけないんだ。」
「逃げられないなら、自分から喧嘩売るぐらいの勢いでいかなきゃ、な。」