「顔色悪いな。 死人みたいな顔してるぞお前」
憂鬱な面持ちでコーヒーを啜る俺にしれっとそう告げたのは岡野だった。
俺は答えることなく柔らかな湯気を漂わせるトーストにかじりつき、ゆっくりと咀嚼する。
岡野は苛ついた様子で眉間にシワを寄せ、小さく舌打ちしてから氷が溶けて色の薄くなったアイスティーの残滓をストローで啜る。
「また”下らない夢でも見ました”って顔だな」
「何の話だよ」
「さあ、なんの事だろうな? お前みたいなのを見てるとイライラする」
短い会話の中でも岡野は表情を変えることはしない。
むしろもっと苛ついているのか、右足を小さく足踏みさせている。
それでも俺は何も答えるつもりはなく、サラダの攻略のためフォークを手を取る。
岡野はまた舌打ちをした。 煮え切らない態度が気に入らないのだろう。
そんな事、俺には関係ない話なのだから。
夢で見たあの光景は嘘であり、本当だ。
リョーマが俺を拒絶する夢、ウルグアイが優勝する夢。
どちらが嘘で、どちらが本当かなんて、新聞を読めば分かる事だ。
左隣の椅子に放置してある朝刊にはデカデカと日本優勝と書かれた記事が全面に押し出されている。
そう、日本はワールドユースを勝ち抜き、優勝したのだ。
写真に使われている大空翼の笑顔が眩しく見える。
俺はまた、あの光景をテレビ越し…いや、今回は観客席越しに見る事になった。
それに不満があった訳じゃない。ただ、隣にアイツが居ない。
それだけがとても寂しかったなんて誰にも言えないまま夢を何度もループしている。