「スゲー顔だな、リョーマ。悪い夢でも見たのか?」
ビクトリーノが明るく声をかけてくる。
俺は小さな声でああ、と返答するだけでそれ以上の言葉は返さなかった。
ビクトリーノもそれ以上は何も言わず、勝手に隣りに座った。
「俺達は明日、ウルグアイに帰るわけだけど。 …お前には会いたい奴は居ねぇの?」
「別れは済ませてある。 二度と会うつもりはねぇよ」
「ふーん。……”コンジョーノワカレ”ってやつ? ロマンチストかよ!」
「そんなんじゃねぇよ」
茶化すような言葉に苛つきを覚えつつもなんとか冷静に返した。
RJ7を抜けるあの日、伸ばされた手を払ったのは自分。
どこか泣きそうで、どこか我慢して、精一杯の愛情を向けた弓倉を拒絶したのは俺だ。
俺はもう日本に帰るつもりは無かったし、何より最後まで本心を語らなかったアイツを許せなかった。
ただ一言、愛の言葉を。
それを言わなかった俺もお前も、きっとこの距離に押しつぶされてしまうから。
だから、俺はその右手を払った。
そして、全てを諦めた。
「二度と会うことなんてねぇよ。 これでさよならだ、弓倉」
その言葉が全てだ。
二度と会うことはない。
そして、その愛を語ることすらも永遠に無いのだ。
弓倉の視線が俺から逸れる。表情は読めない。
その直後、岡野から強烈なビンタを一つ、食らった。
痛ぇ。
睨みつけながら溢した言葉に、誰も答えやしない。
そして、悲惨な”両思い”は幕を閉じたんだ。