「火野とのこと、お前は諦めきれるのかよ」
岡野の言葉に相変わらず答えられないままだ。
諦めきれる訳はないが、諦めなければいけない事なのだ。
距離、拒絶、そして未練。
アイツにとって俺は切り捨てられる存在で、俺にとってはアイツは……。
うじうじした態度と取られたのだろう。岡野は俺の頬を強めにビンタした。
痛みで一気に視界が歪む。
すぐさま振り返り睨みつけた先に、心底呆れたような、それでいて哀れんだ目で岡野は俺を見つめていた。
「一生やってろ、お前も火野も」
「……は?」
「そうやって、下らねえ理由作ってお互いから逃げてればいい。 二度と俺を巻き込むな」
「……意味が、分からない」
「お前も火野も、お互い好きあってるのになんで互いに目を逸らすんだつってんだよ」
硬直。
……リョーマが、俺を、好き?
まさか、そんな。
呼吸が一瞬、止まる。
だって、そんな事ありえない。
手を払いのけられたあの日から、俺の『片思い』は終わったんだ。
答えは一目瞭然じゃないか。
なのに、今更。
「リョーマは、俺の事好きじゃ、ない」
「お前の手を払った時、お前とおんなじ顔してやがった。
お前のために俺はその手を拒否しました、みたいな顔してさ。
だからビンタした。 お前ら似た者同士だな、お似合いだよ。
ビンタ食らった顔まで同じじゃねーか」
笑い混じりに食らった説教に、俺は何も言えずにいた。
じゃあ、どうすれば良かったんだ。
相手の言葉を無視して、それでも好きと言えばよかったのか?
行かないで、と泣けば済んだのか?
違うだろ。わかってる。分かってるよ。
視線がまた歪む。
頬を伝う液体の熱さに、唇が震える。
伸ばした手を拒絶されたのは俺。
拒絶した先の表情を見れなかったのは俺。
答えを間違えたのは、俺なんだ。