その先に未来があるのか、ふと不安に駆られたことがある。
未来が欲しいわけではなく、また過去を振り返りたい訳でもない。
けれども、隣で笑う男の人生を奪っているのではないか、とくだらない考えを持っては胸が痛むのも事実だ。
若林、お前の未来に俺は必要か?聞けやしないくせに、その手を離しそうになる。
何度も追いかけて、掴んだ手だった筈なのに。
「若島津、どうした?」
若林の声に我に返ると、心配そうに自分を見つめている姿が目に入る。
……試合中は誰よりも冷酷にそして熱く自分を叱咤する男が、フィールドを出ればこんなにも自分を大切に思ってくれている。
そう錯覚できるほど、優しく微笑みかけてくれる。
握られていた手の強さに気づいて、逃げるように指を離そうとしたが、逃さないと言わんばかりに指を絡めてくる。
「また、なにか考えていたのか?」
「……別に、何も」
「考え込むと黙る癖はもう見破っているぞ?誤魔化すなよ」
「そんなんじゃ、ないさ」
俺の癖も表情の変化もこの男は見極めようとする。
心地いいはずなのに、怖くもある。
瞳を合わせれば、射抜くように見つめてくるこの男が、愛しくもあり、恐ろしくもある。
絡む手を不器用に握り返し、少しばかり身を寄せてみれば、若林は嬉しそうに目を細める。
「……もし、俺達に未来があるのなら……お前の隣は俺だけであってほしい」
くだらない話だ。望んでいたかすら、分からないのに。
それでも、若林は俺の手を握ったまま、そうだな、と軽く答えを返す。
「未来はある。そして、俺の隣にはお前だけ。約束してやる」
信じてみろよ、と笑いかける若林になんだか泣きそうになって俺はうつむくしかできない。
信じていいのか?…信じたいんだ。なぁ、若林。
聞こえないように、あいしてる、と呟くだけで、今の俺は精一杯だった。