まさか結婚を前にしてウェディングタキシードを着るとは。
松山さんが苦笑いしながらそう呟いていたのを俺は聞き逃さなかった。
そりゃあそうだよな。俺たちもいつかは誰かを好きになって、美しい花嫁とともにこの一張羅を着るんだろうな。
まぁ、でもこれは……ありえないだろうけど。
チームがとある会社とコラボレーション商品を出すことになった。
よりにもよってウェディングタキシードとして。
チームカラーを使った二種類のそれを何故かモデル選手として俺と松山さんが着ることになった。
松山さんも俺も、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見つめ合ったのを今でも覚えてる。
チームとして若手で人気どころである松山さんを使いたい気持ちは分かるんだけど、なんで俺まで……?
とにかく、大役である事は間違いない。
気を引き締めて挑まないと…………!
俺は白のタキシードを身に纏い、松山さんは赤のタキシードを纏った。
カメラマンに指示され、とりあえず近づいてポーズを取る。
「うーん、収まりが悪いなァ。松山さん、もっと横に」
どうやらカメラワークが宜しくないのか、気難しそうな顔をして松山さんにもっと近づくように指示する。
松山さんも戸惑いながらかなり距離を近づけ、様子をうかがうようにカメラマンを見た。
「ん〜、せっかくだし肩に手おいてみてくださぁい」
素っ頓狂なカメラマンの指示に、俺は身体を大きく跳ねさせる。
ちょっと!そういう撮影じゃないだろ!?
思わず抗議しようかと前を睨みつけたが、松山さんは素直に俺の肩に手を置いた。
「怒るなよ、小田。嫌かもしれないけど我慢しろ」
「い、嫌ってわけじゃ……!」
小声で俺を嗜める松山さんに小声で反論しつつ、やっと納得したようにカメラマンが写真を取り始める。
一枚、また一枚と写真を撮り続けるなかで、不意に空いていたもう片方の手を松山さんはそっと握りしめた。
「っ!?ま、松山さん…………!?」
「いいから」
カメラマンも手を握ってることには気づいていないらしく、写真を撮り続けている。
動くこともままならず、恥ずかしさから汗も出て、心臓がバクバクと大きく脈打つ。
神様、俺、死んじゃいそう…………!!
「はーい、オッケーです!お疲れさまでした!!」
結局その後、ソロでの写真撮影も難なくこなしやっと開放される頃には汗は止まっていた。
こんな体験、二度と出来ないだろう。
そう思いながらジャケットをゆっくりと脱ぎ、係の人に渡す。
松山さんも服をテキパキと脱いでいつもの私服に戻れば、俺の肩にまた手を添えてそのまま強めに叩いた。
「お疲れさん!……外で待ってるから一緒に帰るぞ」
一緒に飯行こうぜ!といつもどおりの笑顔で立ち去る松山さんの背中を見つめながら、触れられた肩に灯る熱に、愛しさを感じていたのだった。