ゆめをあじわう
「夢の中でさ、お前とキスする夢を見た」
「……はぁ!?」
「だから、お前と俺が唇同士をこう……」
「いや、聞きたくねぇから! それをなんで俺に言うんだよ!」
「そりゃあ、お前だからだよ」
ロッカールームで二人、雑談している途中に投げられた爆弾。
リョーマ曰く、俺とキスしてそのまま……とシーンが切り替わるまえに両手で口を押さえつけた。
聞きたくねぇよ!そんなふざけた話。……そもそも、俺とお前は男同士だろうが。
確かに、俺はお前の事……好きだけどさ。
でもお前は違うわけじゃん。
その話の次に、きもちわるいとか、そういうネガティブな言葉を並べて欲しくなかっただけなんだ。
だから口を塞いだ。
ある程度暴れてたリョーマは、俺の両手を口から剥がして睨みつけてきた。
「苦しいんだよ! バカ!」
「おっ、お前が変な話するからだろう!?」
「変な話か? 面白いじゃねぇか」
「面白いって、お前な……」
「だって俺がお前とキスしてんだぜ? その後さ、お前が……」
「いい、聞きたくない」
この感情を押し殺してるんだ、たとえ好きなお前からでも茶化されたくない。
夢の中の俺は、どう思ってお前とキスしたんだ?
勇気を出してリョーマを抱きしめて、ちゃんと好きって言ってからキスしたんだろうか?
背を向けて服を着替え始めた俺に、リョーマは暫し沈黙した後、そのまま俺を抱き寄せた。
「その後にお前がさ、好きだっていったんだよ」
何処か縋るような声で、呟かれた言葉に俺は目を見開く。
リョーマはゆっくりと呼吸を繰り返してから言葉を続けた。
「俺が答える前に夢が覚めちまったから……。神様が多分、もう言っちまえって背中押してくれたんじゃねえかなって思って」
「……なんの話だよ」
「何の話か、今から教えてやるよ」
リョーマが目を閉じて顔を近づけた。
お前が見た夢を現実の俺で続けんじゃねぇよ!
……でも拒めなかったのは……、俺もその夢に混ぜてほしかったからかもしれない。
俺も顔を近づけて唇を触れ合わせた。
「本物とキスした気分はどーよ」
「悪くねぇ。ううん、すげぇいい気分!」
「なぁ、もっといい気分にさせてやろうか?」
「は? それってどういう意味……」
一拍置いて、またキスをする。
今度は舌を軽く差し込んで、深い口付けを交わしてみせた。
数秒間、唾液が絡む音だけがこの部屋に響く。
そして、唇を離して一言
「好きだよ、リョーマ」