鏡の中の俺たち - 2/6

俺は火野の首根っこを捕まえて、そのまま人気のないところへ引きずっていく。
改めて人がいないことを確認し、小さく咳払いをして問いかけてみた。

「お前、タニンギョーギがどうとか言ってたよな」
「ああ、そういえば言ったな」
「お前的にタニンギョーギじゃない俺ってなんだよ?」
「はぁ? ……そうだな、名前呼ぶときはなんていうか、上手く言えねぇけどさ……嬉しそうに呼んでる気がする」

はぁ!?と素っ頓狂な声を上げてしまい、慌てて口を自ら塞ぐ。
待ってくれ、こいつが知ってる俺ってそんなに変なやつなのか!?
……それとも、態度に出やすいのか!?
どっちにしろありえねぇ。あってほしくねぇ。
なんか、ゾワゾワとしたモノがせり上がってきて、なんとかなだめようと大きく深呼吸した。
その態度を見てか、怪しいと言わんばかりの目つきで火野が睨んできやがる。

「な、なんだよ!」
「お前、弓倉か? ま、まさかヨウカイが化けてる!?」

睨んだまま変に構えて、変なことを言う火野にこちらもつられて変な声が出る。

「はぁ!? 何いってんだよお前!」
「いやだって、こんなこと言ったら顔真っ赤にするのに、すごい気持ち悪そうにしてるし」

いやいやいや!どんだけだよ、こっちの俺!?
逆にイライラして、バカヤロー!と再びスネを蹴ってやる。
小さな悲鳴を聞いたあと、背を向けてそのまま走り出す。
……やっぱ、調子狂う!!
俺にはやっぱり、『火野』しか合わない。
黒髪で、クールで、俺なんか相手にしてないって顔したアイツが、いい。

「弓倉、今日は様子が変だぞ」
「そんなつもりは、ないけど」

睨むように見ていたのが悪かったのか、リョーマに声をかけられた。
できるだけ違和感がないように、できるだけ変に振る舞わないようにと気を使っていたのが逆に不審だったらしい。
そっけなく返してみれば、リョーマは更に不思議そうに首を傾げる。

「いつもなら、『心配するなよ!』って思い切り噛み付いてくるのに……そんな元気もないのか?」
「あ、え……まぁ、あまり調子は良くないかもな」

噛み付いてくるって……こいつが知ってる俺は落ち着きが無いのか?
とりあえず誤魔化すために更に嘘をついてみる。
リョーマに差があるように、俺達に差があってもおかしくは無い。
見た目よりも中身が違うのは、余計に困るが。
とにかく、誤魔化しきれるうちに離れよう。
そう思い、逃げるように背を向ける。
そうすれば、リョーマが小さくため息をついた。

「お前のことだ、また無茶したんだろ? ちょっと休んでこいよ」

そう言って頭に手を乗せ、ゆっくりと撫でてから去っていく。
あー……なるほど、なるほどね?
なんとなく、こっちの俺の立ち位置とお前の立ち位置が分かった。
そう考えたら、なんだかうちの『リョーマ』に会いたくなった。
逃げるように歩き出して、人気のなさそうなところで足を止めれば、大きく深呼吸した。

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