「来い、火野!!」
紙の言葉に従って全力疾走でグラウンドに戻れば、汗を拭う金髪馬鹿を発見し、腕を掴む。
乱暴に引っ張りながらコチラへと誘い込むも、不思議そうにするだけでびくともしない。
動け!うーごーけーよー!!てかマジ動かねぇ!!なんだよお前!!
「は?何?なんだよ?そんな引っ張るなよ弓倉!」
「いいから!!来たらチューでも抱っこでもしてやるよ!!だから早く!!」
「!?うわ、お前、大胆だな……いや嬉しいけどさ!なんならここでしても……」
「来ないならチンコ蹴るぞ!!」
「分かったから!!今日まじ凶暴だなお前!!」
噛みつくような勢いで怒鳴りつければ、どこか嬉しそうに動き出したから、手を掴んだまま元の鏡の前へ戻る。
説明はめんどくさいから、鏡の前に立てと命令した。
しぶしぶ鏡の前に立った火野は、わざとらしくポーズを取るものの……鏡に写っている姿が自分じゃないことに気づき、慌てて俺の腕を掴んだ。
「おい!弓倉!これヨウカイの仕業じゃねぇのか!?」
「んな訳あるか!!ほら、鏡に触れてみろよ」
怯えた様子の火野の背中を軽く蹴り、鏡に触れさせてみる。
予想通り、指が鏡に埋まり、向こうに繋がった。
それを見て、火野は更に驚いて俺に抱きつく。
おいやめろよ!鏡越しの俺がめちゃくちゃ睨んできてるし!!
「弓倉!!なんだよこれ!!」
「説明は後でしてやるから!……お前は向こうの俺の腕をつかめばいいんだよ!」
「はぁ!?!?ヤダ!!!!」
「掴まなかったらチンコ蹴るぞ」
「ツカミマス」
こっちの火野は本当頭悪くてよかった。
いや頭悪いというより子供っぽい……のか?まぁいいや。とにかく。
まずは向こうの俺が鏡にそっと触れた。
「よく分からねぇけど……お前は弓倉じゃないんだな?」
「お前の知ってる弓倉じゃない、が正解かな」
「だろうな。どうりで大人しかったから」
「……なぁ、お前はさ……『俺』の事、好きなわけ?」
「…………好き、かもな」
目の前でわけのわからないやり取りをしている二人を鏡越しに見つめながら、俺たちは淡々と会話をする。
不意に漏れた疑問に、ぽつりと答えてくれたけれど、表情はとても穏やかに見えた。
「でもそれが、LoveなのかLikeなのかは……決め兼ねてるところはあるぜ?」
「ふぅん」
「お前は向こうで喚いてる金髪の事、好きなんだな」
「……まぁな」
やっと伸びてきた腕に捕まり、投げられた言葉に答えを漏らす。
穏やかな表情の火野が、どこかおかしくてなんだか笑っちまう。
「後でお前んとこの『俺』を返してやるから、可愛がってやれよ?」
冗談を漏らして、俺は鏡に吸い込まれた。
「うわーーー!!!!弓倉が増えた!!!!」
「増えたってなんだよ!!」
勢いよく引っ張られたせいか、そのままリョーマに覆いかぶさってコケる。
お互い顔を近づけて、睨み合うもののすぐにそのまま唇を重ねた。
うまく言葉も感情もまとめきれなくて、こうする事でしか『俺』である事を伝えられなかったから。
しばしの沈黙の後、ドン引きしてる俺が見下ろしているのに気づいた。
「うわ……お前ら……キモ…………」
「うるさい。ほら、早く帰れば?手伸びてきてるぞ」
鏡越しに伸びてる手を指させば、俺はそれを掴んで同じように鏡の中へ吸い込まれた。
その刹那、鏡にヒビが入ってそのまま後ろに倒れた。
…………解決したってことかよ?
とにかく、俺は今目の前に居るリョーマが愛しくて、柄にもなくもう一度キスしてみた。
やっぱお前がいいよ。お前じゃなきゃ駄目だから。
言葉にするのも恥ずかしいから、こうして何度もふれあいを続けてみせた。