「鏡、割れちまったな」
火野に手を握られたまま呟く。
赤いユニフォームを纏う火野が、俺をじっと見つめている。
黒髪で、ムカつくほどクールで、でもどっか熱い男。
俺が好きな火野竜馬がここに居て、お前が知ってる弓倉宣之がここにいる。
それで充分だろう。なのに、妙に寂しさが残った。
「お前さ、向こうの俺と何話してたの」
「……さぁな?」
ああ、そうやってはぐらかすのもお前らしい。
それでいいんだよ。俺の事好きだ、なんて言うお前なんて柄でもないもんな。
でもさ。……でも。
もし、俺がここでお前に好きだって言ったらお前はさ。
好きだよ、って返してくれっかな。
……ああやっぱ、やめとこ!気持ち悪いってオチがつくだろ!これ!
なのに、お前の手を離せないまま握ってる俺、カッコ悪いよな。
その手を解かないお前に、ちょっとだけ期待してる俺、カッコ悪いよな。
「弓倉、お前は」
不意に聞こえた言葉に顔を上げる。
「俺のこと、好きか?」
なぁ、火野。
お前さ、実は超能力者だったりしない?
うまく言葉が出ないまま、俺はお前の腕を掴んで少しだけ背伸びした。