「結局、遊んでばっかだったな」
「砂浜ダッシュとか、もっとやりたかったんだよこっちは……!」
夕焼けが見える頃ーーーー。
四人はさんざん海を楽しみ、ぐったりとした様子で荷物をまとめている。
結局弓倉も海に投げ込まれるわ、遠泳させられるわ、とあれよあれよと巻き込まれていってしまった。
3対1はズルいと思う、弓倉は納得していない様子で濡れた髪をタオルで拭う。
近くにあったシャワー施設はボロいから湯が出ず、冷たくて勢いの弱いそれで必死に洗ったせいで肌寒いのか、身体を少し震わせている。
「帰ったら風呂入って寝る……」
「疲れた様子だなお前ら」
「誰のせいだと……」
「皆のせいだろ、みんなの!」
お互いに軽口を叩き合い、荷物をまとめる。
借りてきたパラソルはリョーマ達が運んでいった。驚かれるだろうな、と弓倉は密かに思った。
「まぁ、さ」
『弓倉』がぽつりと呟く。
「面白かったぜ、意外と」
自分ならしないであろう満面の笑みで言葉をかけてくる『弓倉』に、少し間を置き、弓倉は頷いてみせる。
ありえない再会だと理解しつつも、こうして僅かの間また交われた。
それを喜ぶべきか、嘆くべきか…………。
今の弓倉には分からなかった。
多分それは『弓倉』も同じだろうと思う。
「次の夏、またこうして会えたらいいな」
「え、やだよ。お前らと居ると練習にならねぇし」
「うわ、ドライ」
「うっさい」
次があれば、なんて期待したくない。
そんな意味も込めて、『弓倉』の言葉に弓倉は真顔で突っぱねた。
次なんて、なくていい。
俺たちはそもそも世界が違うんだから。
次なんて、ありえない
俺たちは交わることは本来無いんだから。
沈黙の中、それをかき消すようにリョーマ達が帰ってくる。
50連発!花火セットと大きく書かれた派手な袋を手に。
笑顔なリョーマと少し苦笑いの『火野』は、それを差し出して、様子をうかがってきた。
ああ、そうか。コイツも、『コイツ』も。
もう少しだけ夏を満喫したいのか。
呆れてしまうけれど、たしかに俺もそうなんだろう。
もう少し、もう少しだけ。
「お前ら!花火を振り回すな!」
「てかロケット花火を持とうとするな!」
はしゃぐ面々に説教じみた言葉を投げかけてみても、寝耳に水状態だったりする。
満面の笑みで両手に花火!と謎の構えを取るリョーマは馬鹿っぽくて笑いを通り越して呆れすらある。
それに合わせてロケット花火を投げつけようとする『弓倉』にも。
慌てて『火野』が止めに入って、なんとか事なきを得たけれど。
派手な打ち上げや豪勢な手持ち花火などで盛り上がりながら楽しみ、最後には線香花火で締める……なんて事ができるわけもなく。
線香花火を垂らして下を見つめる俺に、『火野』はどこか寂しそうに笑った。
「日本の花火って、なんか寂しいよな」
「まぁ、個人でやれる花火なんてこじんまりしてるし」
「そのセンコーハナビってやつが、なんか余計に寂しさを出してる気がするぜ」
「……こういうのが美しいんだよ。日本では」
静かな時を過ごし、しめやかに終わる。
そんな終わり方を美しとするのは、日本の文化なのかもしれない。
赤く膨れ上がった玉が地面に落ちていくさまを、『火野』はやはり寂しいな、と小さく零した。
バケツにゴミをまとめ、火の元もしっかりと片付けて、改めて別れの時を噛みしめる。
今日はきっと夏が見せた一時のまぼろし何だと思う。
またな、と言葉をかけることはしなかった。
それをすれば未練が残る気がしたから。
背を向けてバケツ片手に歩きだした俺に、リョーマはアイツラに軽く手を振ってから俺の後ろについた。
「また会えるかな」
「さぁ。でも会えなくてもいいよ」
「なんでだよ」
「どうせお互いうまくやるから」
「たしかにな」
だから、このまぼろしはもう二度となくていい。
このまぼろしを忘れて、お互いいつもどおりの二人に戻る。
きっとアイツラも同じことを考えてるはずだから。
かなり離れたところで、『弓倉』の「じゃあな」という声がかすかに聞こえた。
振り向いたときにはもう誰もいなかった。
謎の再会を果たした二組は、再びお互いの世界へと戻っていった。
もう二度と会うことはないと思うけれど、お互いうまくやっていこうな。
満月浮かぶ空を見上げてそう呟けば、弓倉は小さく笑った。