俺を灼熱の炎と比喩するならば、あいつは絶対零度と呼ぶべきだろう。
満を持して登場したステファン・レヴィンの凍りついた瞳を見て、俺はそう感じた。
白夜の騎士――――。
スウェーデンのキャプテン、予選リーグ一切試合出場せずにヴェールのように隠されたその素顔。
薄い色素の金髪でその冷たい眼を隠し、煌めく蒼に宿る冷徹さを少し和らげている。
「お互い、いい勝負をしよう」
伸ばした手は握られたけれど、レヴィンから言葉が返ってくる事はない。
その眼に宿した冷気が俺の頬を掠める。
……いいだろう。その絶対零度を、俺のファイヤーショットで貫く。
握られた手が解けた時、俺は瞳に炎を宿した。
笛が高らかに鳴る。
その笛は勝利のファンファーレにはならず、俺はただ芝に膝をついた。
5-3。残酷な現実が電光掲示板を照らしている。
頬をかすめた冷気は、確実に俺の身体を凍らせて、最後には炎すら凍てつかせた。
あれほど走り回り身体は熱を持っているはずなのに、ひどく冷える。
頬を伝う汗すら、今は氷のように冷たく感じるのだ。
震える身体をなんとか支え、揺れる瞳でレヴィンを見る。
オーロラを纏う騎士が、俺を小さく嘲笑った。
――――俺に熱を灯したのは、若林だ。
くすぶる熱を炎にして俺はピッチに立った。
――――俺を凍らせたのは、レヴィンだ。
その熱すらも包み込み、俺を捉えて離さない。
俺はあのオーロラに囚われた。
美しくも残酷で、全てを凍らせる絶対零度。
その中で未だ炎を燃やし、俺は爪を立てる機会を伺っている。
冷たく嘲笑うお前の胸に、爪を立てるその時を。
「……ああ、そうか」
ひどく冷えた声が漏れた。
これが。
炎が氷を溶かし始めた。