「浜本、お前も見るか?」
眼の前に広げられた下品なポーズのセクシー女優にの写真に、俺は面食らったように言葉を詰まらせる。
興味が無いわけではないが、日本に来てからそういうのを見てる時間なんて無かった。
実際、大きな胸を寄せて強調するポーズにギラギラとしたセクシーな下着姿の女優を見て素直にエロいな、と思う心はある。
けれども、今の俺には無用の長物だ。
「いや、いいです」
一言断ってから席を立つ。
今の俺には立浪という恋人が居るのだ。女で抜くなんてなんだか馬鹿らしい。
肝心の立浪とそういう事をしていないのに、馬鹿らしいというのも変な話ではあるが。
とにかく、俺には女のケツもセクシーポーズも必要ない。
今必要なのはサッカーでより高みを目指すことだけだ。
……と、かっこ良く言えれば良かったのだが、やはり立浪と付き合ってそれなりに日が経っているのに、進展無しは辛い。
自分なりにアタックしているが、あからさまにそういう雰囲気を避けられている……気がする。
アイツの事だ、またつまらない考えを持って逃げてるんだろうが…そうはいかない。
いやでも対峙するように、一つ罠を仕掛けることにした。
立浪も所詮は男だ。どうあがいてもエロからは逃げられない……ハズ。
作戦を考えながら自室を出てうろうろしていたところ、誰も居なくなった娯楽室に放りっぱなしになっていたエロ雑誌を見つけた。
それを手に取り、パラパラとページを捲る。
チラチラと見える下品で下劣なエロポーズに濃厚なセックスシーンを売りにした漫画、卑猥な言葉を並べただけど陳腐な小説らしきもの。
ポルノというのは何処も変わらないのかもしれない。…ふと、目についたのは『男が好きな体位10選』『彼女にさせたいドスケベポーズ♡』など、セックスの時に使ってほしい誘惑のポーズ特集だった。
がに股で腰を突き出していたり、ケツを突き出してソコを丸見えにさせている下品なポーズがイラスト付きで並んでいる。
補足として、こういうシチュエーションがあればヨシ♡と書かれ並べられていた下らない設定も読み込んでみる。
……立浪相手にコレをやったら、流石にそういう流れになるのか…?
顎に手を当てて想像してみる。あの真面目が服着てるようなタイプの男が、チンコおっ立ててギラギラと目を光らせて俺を見つめるのか…。
まぁ、セックスどうこうは流れと考えて、そういう獣じみた立浪を見てみたいのは本音だ。
早速やってみるか……。そう思い、放置された雑誌を脇に抱えて部屋に戻った。
「たっ、立浪……今日の夜暇か?」
「ん?ああ、暇だぞ。なんだ?何か用か?」
「用……ってことでもないけど、出掛けないか聞いておきたくて。話したい事があるから……」
「ん……?分かった。部屋には必ず戻るよ」
「21時ぐらいに戻ってきてくれ。心の準備があるから」
「…………??分かった」
流石に俺も男だ。心の準備がいる。
女がしているようなエロポーズをするにも恥ずかしさがあるし、武器になる豊満な胸も尻もありはしない。
筋肉で張り詰めた脚と角張った肩に細くもない腰。
けしてきれいとは言えない顔だけしかない俺がいる。
でも、やってみないことには結果は得られない。
先に部屋に戻った俺は兄さんの写真が入った写真立てを窓側に向けた。
……恥ずかしいところ、兄さんには見せられない。
籠もる熱をなんとか外に出そうと深呼吸してから、着ている服に手をかけた。
21時頃。指定されたとおり部屋に戻る。
照明が暗く、部屋の中がよく見えない。とりあえず扉を閉めてから電気のスイッチを探す。
手探りでスイッチを見つけ出せば、ボタンを押して照明を明るくした。
ベッドの上に浜本がいる。……が、どう見ても格好が普通ではない。
浜本、お前なんで…………。
「チャイナドレスを着ているんだ…………?」
胸元がパツパツで、丈も足りていないからチラリと下着が見えている。
どう見てもミニスカチャイナと言うには無理があるほどに体格に見合っていない服。
そして、チラリと見えた下着を隠すように裾を掴んでM字に座って、恥ずかしそうに顔を赤くして俯く浜本。
いや、何だこの状況は。俺に分かるように説明をしてほしい。
言葉が続かないまま、浜本の前まで移動すれば、浜本は恥ずかしそうに脚を閉じて、今にも零れそうになっている胸元を隠す。
「っ……ごめ、立浪……これは、その……」
「な、なにがあった?えと、その…何を……?とりあえずその服キツいなら脱いだほうが……」
「違、くて……えと……これは……ッ……み、見ないで……」
あっ、これは、マズイ。
恥ずかしさから目に涙を滲ませて逃げるように身を縮める浜本に、俺の股間に熱が走った。
いや、いけない。こんな状況で興奮なんて……!
落ち着かなければ……!そう思い、視線をわざとらしくそらす。
そらした先に見えたのは、あまりにも下品なタイトルとどう見ても性的に煽るのような服を着ているセクシー女優の写真が表紙の本。
……まさか、浜本お前……!
「お、お前、まさか、これを読んでこんな……?」
「ッ…………」
「な、なんでこんな、とにかく服を着て…いや、その服を隠してくれ」
「やっぱり、気持ち悪かったか?俺がこんな格好……」
「そうじゃない!そうじゃないんだ……その……俺も男だから……!とっ、とりあえず説明するから服を隠してくれ!」
「うん……」
これ以上こんな姿を見ていては理性が保てない。
初めての行為がコスプレでは、浜本の両親にも申し訳が立たないし、本人にも悪い。
とりあえず話し合いの場を……!そう思い浜本に布団を被せてから視線を合わせた。
「お前を誘おうと思って、その…買ってみたけど、サイズ合わないし……恥ずかしいしで……」
「なるほど、だからあんな変な本を読んで……ッ……不安だったのか?俺が手を出さないことが……」
「う、……俺、女とはかけはなてるし…それに、子供っぽいから、お前が俺に対して何も思ってないんじゃ、ないかって……」
「馬鹿野郎………」
二人向き合って話しているが、俺の股間はビンビンなんだが……。
本来ならここで抱きしめるのがいいのだろうが、俺の股間はビンビンなので、抱き締めたらどうなるか分からない。
そして、浜本が健気に自分のことを思ってこんな格好をしてくれたこと……そしてこんな下品な本を参考にしてしまったこと……。申し訳無さと嬉しさで俺は泣いていた。
俺の股間はビンビンのままなのに、涙は止まらない。
「シン、お前が焦ってこんなことをしたのは俺が悪い。謝るが……。もっと自分を大事にしてくれ……」
「立浪……」
「俺も男として、適当なことは、できない……。ちゃんと両親に挨拶もしたいし、お前の兄さんにも……だから、お前が嫌とかではなく、ちゃんとしてから、お前とそういうことをだな……」
「シクシク泣いてるところ悪いけど、お前勃ってるじゃん……」
「しょ、しょうがないだろ……男なんだから……!」
「お、俺がこんな格好しても……気持ち悪くなかった、ってこと?」
「あ、当たり前だ……!じゃなきゃ、ちん………股間ビンビンになんかしない………」
泣きながら股間を滾らせている俺は間抜けの極みだが……仕方ないだろう……!
浜本が、あ、あ、あ、あんなセクシーな服で待ってると思わないから……。
泣いて俯く俺に対して、浜本は布団を脱ぎ捨て恥ずかしさを滲ませた笑顔を俺に向けた。
そしてわざとらしく膝の上に乗ってきて…………。
「ちゃんとしてから、じゃ、待てないんだよ俺は。……立浪、俺……」
「や、やめろ、やめなさい。本当にそんな…っ……!」
「ごめん、立浪……俺、その気だったから……全部用意してて……」
「シン……っ……!」
涙が引っ込みそうになる。
神様、俺はどうしたらいいのですか。
時計は22時を超えた辺り。二人の熱い夜が始まろうとしていた。