『いつか、兄さんに会いに来てくれ』
そう言って肩を震わせて無理に笑っていたお前を見つめていたあの日。
認めるのが辛かったであろう兄の死を受け入れ、それを俺たちに話して、過去にサヨナラを告げたお前。
そのサヨナラの後、今度はちゃんとオヤスミを言いたいと、俺に言った後、肩を震わせていたお前を抱きしめる事もできなかったあの日―――。
そして今、俺はシンと二人で兄さんの墓の前に立っている。
綺麗に整備されている墓の前には鮮やかな色の花束と缶コーヒーが添えられていた。
「兄さん、ごめんね。……やっと、ちゃんとおやすみって言える」
「本当はすぐに言わなきゃいけなかったのに」
「ごめん。……今までずっと言えなくて」
墓の前、苦しげに言葉を漏らすシンの背中が小さく見えた。
なぁ、シン。別に無理する必要なんか無いんだぞ。
背中を撫で、その言葉を紡ごうとしたけれど、シンは何かを察してそれを止めた。
「兄さん、俺、本当にいっぱい友達ができて。それに、立浪…コイツが、俺をたくさん助けてくれた」
「本当はみんな連れてきたかったけど、駄目だった。……兄さん、俺の大切な恋人です。立浪は、俺の大切な人です」
「俺はもう大丈夫だから。だから安心して。……おやすみなさい」
涙を落とし、目一杯感情を込めて、シンは墓の前で言葉を紡いだ。
なぁ、シン。泣くなよ。お前の兄さんが心配しちまうぞ。
苦しそうに肩を震わせるお前をどうしてやればいいかなんて分からず、涙で濡れる頬にそっと口づけて、それから抱きしめるのが俺の精一杯だった。
「立浪、たつなみ……!」
「大丈夫さ。大丈夫。……泣かなくていい。忘れなくていいんだ。シン……」
アディオス、ブエナス ノーチェス……。
小声で言葉を紡いだシンは、今度は唇同士を触れ合わせるようにキスをした。
花束は風のせいか、まるで手をふるようにその花びらを揺らしていた。