この世には摩訶不思議な事は沢山ある。
七つ集めれば願いを叶えるという球や、飲むだけで不老不死になれるという薬……。
そしてこんな砂漠にも、摩訶不思議は静かに眠っているものなのだ。
とある国に寡黙で真面目そうな一人の青年がいた。
青年は一人で暮らしており、平凡な毎日を過ごしていた。
ある日、仕事の帰りに偶然立ち寄った市場で、古ぼけたランプを一つ見つけた。
砂で汚れていてみすぼらしいようにも思えるが、ところどころに入っている美しい装飾の施されたそのランプはアンティークとしての価値は十分にあり、青年は一目惚れした。
そしてそれを毎日の労働で稼いだ金を使って購入し、満足げな微笑みと共に持ち帰った。
青年は丁寧にランプを洗浄し、きれいに磨き上げて静かに机に置いた。
そして自分のズボンに手をかけたあたりで、ランプの先端から柔らかな煙が溢れ出し、そこから出てきたのは……。
「ランプを擦りし人間よ、あなたの願いを三つ…って、何してるんですかぁ!?」
明らかに人とは違う青色の肌、たっぷりと贅肉がついた垂れた腹、幼げな顔つきに似合う柔らかな頬、長髪を後ろで束ね何処か真面目そうにも見える存在。
俗に言うランプの精が姿を表した。
しかし、ランプの精が見たのはおもむろに自分のズボンを脱ぎ始めている青年の姿。
慌てて両手で自分の目を塞ぎ、顔を赤くして顔を反らす。
「…………シコい」
「え……?」
青年が呟いた言葉に耳を疑い、目を塞いでいた両手をゆっくりと顔から離す精。
髪を後ろに流し、少し垂れ下がって目つきの悪い青年はズボンを脱ぐのを止め、ランプから現れた存在に見惚れた様子で言葉を紡ぐ
「エロボディすぎて見抜きしたいんだが」
ここで、青年の補足をつけておくとすれば、彼は生粋の変態だった。
家の中には大量のエログッズとエロ本、そういう目的で買った謎のアイテムが所狭しとあり、前だろうが後ろだろうが果敢にチャレンジ……もといオナニーの道具として活用して、性活をエンジョイしていた。
勿論こんな趣味を他人に見せるわけにもいかず、友と呼べる者は居ない。
そんな孤独で平凡な青年だったのだ。
そして青年は偶然にもランプの精に一目惚れしてしまったのである。
「えっ、え、それってお願いの一つなんですか? というか、私、その、間違ってこの姿で出てきただけで……! す、すぐいつもどおりの姿になりますから見抜き? っていうのはそれからでも…」
戸惑い気味に答える精に対して青年は真顔で首を左右に振る。
「一つ目の願いは、一生そのシコいエロボディで俺のそばにいて欲しいんだけど」
「えっ!? …い、一生ですか……? それはちょっとお願いの規律に違反するというか……」
「俺が死ぬまでだから永遠に縛る訳じゃない」
「ま、まぁ、貴方の一生、であれば構いませんけど……って、このだらしない体でお仕えしろってことですか!?」
「そうだ。そのドチャシコエロボディで俺のそばにいてほしい」
一つ目の願いのあまりのストレートかつえげつないパンチに、更に戸惑いを見せるランプの精。
どうみてもだらしなくて見苦しいであろう贅肉がついたやわらかな体に対して好意的に思い、願いにまで組み込んでくる相手の思考が読めず、戸惑いが拭えない。
ランプの精は改めてよそ行きであるスマートで細マッチョな美しい美青年に姿を変え、青年に問いかけてみた。
「そのぉ、私、本来だとこっちのスマートで綺麗な身体で出てくるんです。最初の姿は500年ほど呼び出しがなくて、つい、こう…気楽な格好で出てきただけで…本当にこっちのスマートな姿じゃなくても……?」
「最初の柔らかドスケベエロボディがいい」
「さっきから、言葉遣いがなんでそんなにエッチな言い回しばっかりなんですか!? まさか変態さん……なんですか…?」
「俺は変態だが」
「即答!?」
青年が早く元の姿に戻れと言わんばかりに見つめてくるので、精は慌てて最初のおデブな姿に戻る。
腕の肉も足の肉もタプタプで、けして見目麗しい訳でもないその姿に満足げにうなずく青年。
その姿を見て改めて『ああ、この人変態なんだ……』と認識する。
「あの、その…次の願いとかありますか? 一応一生そばにいてほしいって言われてましたが、お願いをすべて叶えたら本当にそばにいるだけになっちゃいますが……」
「二つ目の願いは、俺の肉便器として身体を差し出してほしい」
「え、えええ…!? ち、ちょっと、そんなストレートなお願いあります!? てか、私は魔人ですよ?! ランプの精! エッチなお願いならもっとこう……たとえば自分だけの恋人がほしいとかありますよね!?」
「だからそういう意味だ。 お前に俺の恋人、つまり肉便器に……」
「肉便器と恋人は違いますよね!?」
ああ駄目だ、この人倫理がない……。
泣きそうになりながらツッコミを入れると、青年は無言でズボンを脱ぎ捨て、下半身を露出する。
そして、改めてランプの精の手を握った。
「一目惚れしたんだ。 俺はお前が欲しい」
「え、っ……」
「だから、肉便器が駄目なら見抜き兼オナホでもいいから俺とスケベして欲しいんだ。 できれば毎日」
「凄い……。 告白した直後にそんな事言われるとは思いませんでした…。 しかもズボン脱いで下丸出しで……」
「これでも駄目なら、もう黙って見抜きしようと思って……」
「凄い失礼だと思うから、やめたほうがいいですよご主人様……」
「……ごめん、今のもう一回」
「さり気なく自分の右手を股間に添えて準備しないで……!!」
結論として、ランプの精は青年の願いを一応受け入れる事となる。
三つ目の願いはとりあえず保留、という事でランプの精と青年のドスケベライフが今始まろうとしている。